涼宮ハルヒの憂鬱」"あらためて"放送は終了しましたので、ネタバレレベルを改定します。
台詞の記述はアニメ版を優先します。引用に付けたタイムコードはyoutubeにupされた動画のものを見て付けていますが、あまり精度はありません。


レベル0
涼宮ハルヒの憂鬱」について全くしらない人向け。原作小説もDVDも前回放送も知らない人。
レベル1
1期放映分を視聴した人向け。
レベル2
文章が書かれている時点でDVDになっている分を視聴した人向け。
レベル3
「あらためて」放送分を視聴した人向け。
レベル4
原作「憤慨」まで読んだ人向け「長門さんの小説っていいよね」
レベル5
原作「分裂」まで読んだ人向け「『わたぁし』って誰?」
レベル6
原作「驚愕」先行掲載分まで読んだ人。:劇場版「消失」を見た人

雑記 Diary2010/08

ネタバレレベル6 : 劇場版「涼宮ハルヒの消失」を見た人

何かおかしい、そんな気がした 
 ほったらかしているうちに8月17日になってしましました。
 以下は6月に「消失」について書いた文の続きです。間が空きすぎてしまったので続きが書けなくなってしまいました。中途半端ですみませんが、捨てるのも惜しいので掲載します。また感賞機会があったら続きを書きます。

 さて、テーマについてです。
消失」は消失世界と通常世界のどちらかを選ぶ話なのか?それとも長門かハルヒのどちらかを選ぶ話なのかというのは、よく掲示板に書かれる定番ネタです。
 しかし、少なくない人が「だれにとって」の話なのか混乱しているのではないかと思うのです。
 言うまでもなく消失長門にとっては、自分が振られる話でしょう。
 キョンにとっては?いつもの欺瞞と自己防衛あふれるキョンですが、今回は本音を出しているかのように見えます。
ところが、よく心情を追ってゆくとそうではない事が解ります。
 20日までのキョンは元の世界に戻りたい一心です。
 19日に文芸部室ではキョンの視線に恥らう消失長門の姿を見て、一瞬だけこのまま消失世界に残るのもいいかなとも思うのですが、ノーマル長門のメッセージが書かれた栞を見て考え直します。
 その夕方、帰りに坂道で気付くのは「なんてこった、俺はハルヒに会いたかった」
 PCが起動して「緊急脱出プログラム」を動作させるかどうか選ぶ時になっても、(サイデリアでの古泉のヒントがあったにもかかわらず)消失世界を消してしまっていいのか?などとは思いもしません。通常世界に戻るのか否か、消失世界に名残は無いのかとしか考えないのです。
 19日夜のエレベーターの扉の向こうに消える朝倉の寂しげな顔も、19日文芸部室で入部届けを返すと言われた消失長門の泣き顔も動画の途中に挟まれた一瞬の表情でしかなく、キョンは注意を向けていない事(見たくないので無視している)である事が示唆されます。
そして、その事は18日早朝になってあきらかになります。
 消失長門と対面したキョンは自問自答します。前半「長門有希の心にあるもの」に合わせて問われるのは、長門が改変をした理由(とキョンが信じている事)です。長門の心の中に感情が生まれた事を、長門が見ていただろうもので表現します。8月の高い空に伸びる雄大積雲に向かって飛ぶ飛行機雲を見、壮大な夕焼けの向こうに沈む太陽を見つめ、そしてマンションの屋上に輝く散光星雲を背にして立つ長門を思い、クリスマスの準備をする部室でゆっくりと三角帽をかぶり、手に雪の結晶の紙細工を持ってカメラ(キョン)を見つめて立つ長門。
 言葉では、長門にストレスが溜まったのは自分にも責任があると言うのですが、キョンの心象では、自分を見ている長門を無視し続けた事を悔い、自分に選択を委ねていると語っています。椅子に座るキョンの前に浮かぶ入部届けと栞。
 ただどちらの世界を選ぶかという問い「だけ」なら悩む事はありません。しかしキョンは既に消失長門に入部届けを返し、ポケットから落ちた栞には触れることすらさせずにポケットにしまいこんでしまったのです。
 短針銃を受け取ったときに、キョンは自分が何をする事になるのか知りました。
まさか実弾じゃないだろうな(p.194)
 それは自らの想いの為に、消失長門を再び消し去る事。
 教室で、マフラーを巻いたまま悩むキョンに、窓ガラスに写ったもうひとりのキョンが語りかけます。
そんな非日常的な学園生活を、お前は楽しいと思わなかったのか。(p.211)
 自分の為に消失世界を作り上げた長門を否定してしまうのかという問いを、今までは「楽しくなかったのか?」という問いにすりかえてしまうのです。
 地平まで続く自動改札機の列。りんたろう風一面透過光で表現される世界の界面。後ろに残した消失世界では、ハルヒ、朝比奈さん、古泉の三人が雪像になって並んでいます。もはや消失世界はキョンにとっては作り物。ゆっくりと降る雪の結晶。改札口へ進むキョンのすそを消失長門がつまんで引き止めます。鏡面の向こうにいたもうひとりのキョンは、改札口の向こうに立って、悩んでいるキョンをふりかえります。もう一人のキョンの恐ろしい言葉。
お前はエンターキーを押したじゃねえか(p.212)
 もはや起こってしまったこと。既に一度エンターキーを押し、入部届けを返してしまった。それは今までの日常が「楽しかった」と認めたからだと。

そして長門もおとなしい読書好き少女で(略)いつもは無表情なのにしょうもないジョークに不意に笑ってしまった後に赤くなるような、時間をかけて少しずつ心を開いていくような、そんな奴になっていたかもしれないんだぞ。(p.213-214)

俺は、迷惑神様モドキなハルヒと、ハルヒの起こす悪夢的な出来事を楽しいと思っていたんじゃないのか?(p.214)

 楽しかったか否かが問いなのですが、消失世界と通常世界の対比は消失長門とノーマルハルヒとのそれであらわされています。「消失長門を消してよかったのか」×「ハルヒとの日常は楽しくなかったのか」 という問い。でも既に答えは決まっていて、それを飲み込むか否かなのです。
楽しかったに決まってるじゃねえか。解りきったことを訊いてくるな(p.214)
 消え去るもう一人のキョン。改札口から吐き出される栞。栞を引き抜き、もう一人のキョンがしたように振り向こうとしますが、やめてしまいます。消失長門を見てしまえば決心が揺らぐから。消失長門の顔を見て別れを告げる勇気はないから。まっすぐ歩いてゆき、夕暮れの教室に立っているハルヒの前に立ちます。

 つまり、既にそうしてしまったから、消失世界と消失長門を消す。なぜそうしたのかというと、今までが楽しかったからだと思うしかない。(中断)
(6月作成 掲載)