雑記 Diary2009/07

涼宮ハルヒの憂鬱」"あらためて"放送中
本放送中なのでネタバレレベルをくわしく記述する事にします。記述はアニメ版を優先します。引用に付けたタイムコードはyoutubeにupされた動画のものを見て付けていますが、あまり精度はありません。

レベル0
涼宮ハルヒの憂鬱」について全くしらない人向け。原作小説もDVDも前回放送も知らない人。
レベル1
前回youtubeにupされている回まで視聴した人向け。
レベル2
文章が書かれている時点でupされている回を視聴した人向け。
レベル3
前回放送分(いわゆる一期:現在DVDになっている分)を視聴した人向け。「『七夕』って何?」
レベル4
原作「憤慨」まで読んだ人向け「長門さんの小説っていいよね」
レベル5
原作「分裂」まで読んだ人向け「『わたぁし』って誰?」

ネタバレレベル?

13話配信中
「ハルヒ あらためて」公式英語字幕版も 8話まで9~12話公開中(公開終了しました)
14話も放送開始

 どうやら(婉曲表現)掲示板も阿鼻叫喚のもよう。なんでこう怒りっぽいひとばっかりなんだろう。集団分極(ググってください)している状況ではおもしろい議論は不可能ですよね。

 各話毎の違いも見比べてみて面白いのですが、テーマにかかわる事として、14話までの話ではすこしずつ変化している描写がたくさんあります、そのうち1つ。金魚とお面は対置されてますね。

「長門の気持ちが解った」という発言をエンドレスでループさせて怒り狂っている(「これで何回目だ、長門」というつっこみが必ず入ります)人たちも、各話を比べてみればいいのに。

 長門さんの心の声も聞いてあげてください。

 以降ネタバレレベル2 13話「エンドレスエイト」まで見た人

 さて、この隙に、前々回指摘したエンドレスエイトの終了条件について書いておきたいと思います。勿論、主人公キョンの立場でなにを遣り残しているかは誰の目にもあきらかですから、何故それがハルヒの望みでもあったのかという事です。

 まず、「憂鬱」ではどうでしょう。
小学6年生の時、野球場事件でハルヒは自らの小児的全能感を破壊されます。普通の人間ならば自分に何ができるのかを探し、そのなにかを成すことで失った全能感の代償とするのですが、何でもできる彼女にはそれができません。中学に入ったハルヒは自分を変えようと思い、世界に訴えようとして情報爆発/時間断層/世界の創造を行うのですが、でも、結局は何もなし自らしたことを知覚することができません。(憂鬱Ⅴ.憂鬱p.226)
 他のだれにもできない事をしているのに自分ではそれがわからず、彼女は苛立ちを深めていきます。

 高校に入ったハルヒは3年前に会ったジョン・スミスに良く似たキョン(本人なのですが、この時点では誰も知らない事です)に出会います。初めて理解者に出会い、無ければ作ればいいのヒントを貰ってSOS団を立ち上げます。ところが何の事件も起きないだけでなく、唯一の理解者のはずのキョンは朝比奈さんばかり見ています。探す筈の"不思議"の無い世界はハルヒにとってやはり退屈で苦痛に満ちたものでしか有りません。こうして「憂鬱」事件が発生します。
 ある夜キョンと共に目覚めたとき、灰色の空間には青く輝く巨人。つまらない日常の象徴である校舎を巨人は破壊します。

 ようやく夢に見ていた不思議に出会えた。もう不思議な事を探す必要も無いわやはりキョンがいれば不思議に出会えると思ったのもつかの間、そのキョンに俺は戻りたい今までの暮らしが結構好きだったんだと言われてしまいます。唯一の理解者の背反。なんとしても繋ぎ止めなければ。アニメ版ではハルヒはすこしうつむいて自分の心に聞きます(憂鬱Ⅵ00;16;35)そこに見えたのは会えるわよきっとあたしには解るのしかしキョンは拒否します。元の世界の、あいつらに俺は会いたいんだ繋いでいた手をハルヒは振りほどき、泣き叫ぶような声であんただって面白い事が起きて欲しいと思ってたんじゃないの(アニメ版の台詞)ところがキョンの言葉は意外なものでした思っていたともかなり面白い目にあってたんだ世界はお前を中心に動いていたおまえが知らないだけやっぱりキョンは不思議を見ている。でもそのキョンが居たい世界に自分は不要なものではないのだろうか。ここでキョンが決意します。ハルヒは後ろにいる(ただの)クラスメートじゃない、ましてや時間のゆがみ(などの”不思議”)でもあるはずがない。ハルヒが白雪姫sleeping beautyであり、自分の役目が王子であることを受け入れます。キョンにとってハルヒがどうしても必要な存在である事を認めるのです。こうしてハルヒは閉鎖空間にいる理由を失います。世界に不思議が満ちていても、それを自分ひとりではみいだす事はできない。自身の存在を望む人がいてこそ”不思議”が意味を持つ事を知ったからです。

 いささか長くなりました。つまり、「憂鬱」ではハルヒはキョンに ”自身の存在を望まれた” 事で満足しているのです

 「憂鬱」事件をハルヒは夢だったと思い、それで納得します。しかし、ハルヒ似合ってるぞ……この世界でキョン一人が彼女の存在を望んでいる事には変わりはありません。

 「退屈」ではハルヒは、やはりなにも面白い事が無い事に退屈していました。閉鎖空間で約束しておきながら、日常に戻ると忘れてしまうのがキョンです。*) そんなキョンをハルヒは野球大会に誘います。最大の閉鎖空間を発生させるほどの不機嫌だったにもかかわらず、キョンにあなたがいいなら、それでいいわ(原作ではあんたは、それでいいの?(p.68))と言うと試合放棄に同意します。あの小学6年生のとき野球場で味わった恐ろしい無力感。それに比べれば小さな勝利ですが ”自分のしたことを承認してもらえた” 事でハルヒは満足しています。
 次に長門の起こした「ミステリックサイン」や古泉が企画した「孤島症候群」も、彼女の退屈を紛らわせる事には成功しましたがハルヒ自身の存在を強く望んでいる(とハルヒが思っている)キョン発のものでなかった為に、その効果は長続きしませんでした。

 キョンが田舎から帰ってきた翌日、8月17日に「エンドレスエイト」が発生します。「退屈」からわずか1ヶ月。彼女の望みは ”キョン自身が望む事をして、喜びを分かち合いたい” だったのではないでしょうか。

以降レベル4:原作既読者向け
*)ちなみに「憂鬱」と対置されるのは「消失」ですが、「憂鬱」の直後に「退屈」があるように、「消失」の直後には「ヒトメボレLOVER」があります。
一見長門がおとなしく見えるので「ヒトメボレ」のキョンの非道が際立ちますが、野球大会のビラが来るまでほったらかしの「退屈」も酷いですねえ。

 ネタバレレベル2 14話「エンドレスエイト」まで見た人

14話「エンドレスエイト」がweb配信開始されました
 さて、12話から14話までを連続で見ると、少しずつ変化している描写に気が付きます。原作を読んだときには気が付かなかった各イベントの連続に深い関連性があることもわかります。

 プール→盆踊り(お面+金魚+たこ焼き)→花火(一日団長+宿題)→アルバイト(カエルの着ぐるみ)→天体観測
に、こんな深いつながりがあるとは原作を読んだ時は思いもよりませんでした。

 カエルの着ぐるみはハルヒにとって長門のお面と等価ですね。14話で長門がお面を正面から被ってハルヒに見せると、ハルヒがいままで頬擦りしていた着ぐるみを始めてかぶって、キョンからはそっぽを向く(カメラからは正面)というわかりやすい演出です。この深いつながりのあるシークェンスで、変化しているのは長門のお面へのキョンの態度です。

12話 お面の出店でキョンは無言
13話 キョンそんなもんに興味があるのか、どれ 長門いい
14話 キョンお前、こんなものに興味があるのかどれ、俺が買って… 長門いい

 この変化に応じて後のシーンが変化してゆきます。勿論、長門がいいと言うのは観測に差し支える(ハルヒがキョンのプレゼントかと疑う)からなのでしょうが、それも既に14話で長門はハルヒにお面を見せつけてハルヒの勘違いを誘っています。

 少しずつの揺らぎがありながら30日だけがキョンにとっての唯一のチャンスであるかのように見えてしまいがちなのですが、最初にして最大の決断ポイントは18日夜にお面を買えるかどうかなのです。

 15話ではキョンは長門の遠慮を差し置いてお面を買ってあげられるでしょうか。そうすればハルヒに「俺が買ってやったんだ」と言わざるを得なくなり、総ての事象が回りだします。

以下、小ネタです。
 「エンドレスエイト」シリーズで、最も残念なものは天体観測のシーンです。「また天オタが偉そうに」などといわないでください。
 望遠鏡の細部がどうなっているか、特に接眼部(白い望遠鏡本体から垂直に突き出た、眼で覗き込む黒い部分)の描写があいまいだとか、赤道儀の使い方が解らないので、調整している描写なのに古泉の手が望遠鏡に触っていないとか、火星は北極星の方向じゃないだろうとか、どの軸がどう回転するか解らないので回るはずの無いところが回ってしまう(14話でハルヒが望遠鏡をグルグル回すところ)などというのは、部室に引かれたLANケーブルや椅子の位置まで自然になるようにDVD版で修正する京都アニメーションとしてはかなりまずいのではないかと思うのです。

 現在放送中の「宙のまにまに」は、天文雑誌と国内最大の天文サイトが全面協力ですから、恐らくかなり正確な描写になってくるでしょうし、「ハルヒ」と放送局も重なっています。実際、「ハルヒの取材です」といえば光学メーカーや望遠鏡ショップも協力を惜しまないのではないでしょうか。宣伝になる、というよりも天文ファンはみんなドラマでの望遠鏡のなおなりな描写にかなりあきれているのですから。

 「宙のまにまに」でも、「星ナビ」誌lではTV番組なのに、いえ映像作品なのに(涙)描写が正確であるという一点で話題になっています。“北を向いていない”赤道儀にも注目だ。(上記サイト)この言葉の意味、天文好きなら解りますよね。一般的な機械の描写に置き換えると「時計の針が、カタログ写真に影響されて10時10分30秒を指しているということが無い」という意味ですよ。泣けてきます。望遠鏡のあつかいはハルヒの性格を表現する小道具でもあります。たとえば12話では

ちゅるやさんAAでEE
AAは「涼宮ハルヒの憂鬱 SOS団の活動1248日目」から

 15話放送開始
 さらなる激震がwebを襲う!今まで積み上げてきたかに見える描写に、ちゃぶ台返しを食わせる展開の模様

 まだ見てない(前前回に同じ理由)ので、今回は一つだけ。
 考え直してみれば、15000回以上繰り返してもハルヒに想いを伝える事を拒み続けるキョンが「俺が買ってやりたいのさ、3年間俺や朝比奈さんの事を見ててくれたんだよな。ありがとうよ、長門」なんて言うはずも無いのですよね。
だから長門もわたしの役割は観測だから(=仕事だからそうしている)と600年間言い続けるしかない。そしてそう言われればキョンはそうかと言うことしかできないのです。
 絶望に沈む(ように観客とキョンには見える)長門。その代わりに、ハルヒ自身が去り行く夏の象徴としてたち現れます。
 去ってゆく夏(=ハルヒ)を押しとどめようとあがいているのは、キョン自身でした。
 私は勿論、キョン=神様説には組みしません。最終的にキョンの思い通りになるのは、キョンが主人公だからです。
 それ以上に今回ハルヒが望んでいる事はなんなのかを考えるならば、ループが止まらないのは当然の事でした。
 さて、なんとかするしかないと思い直したキョンは夏を終わらせる事ができるのでしょうか。

ひとつおまけ
 今期の最終回は「消失」の第一回ではないかという気がしてきました。原作でいうと12月18日のお昼に美しい委員長がキョンに声をかけるあたりでendになって、誰もいない「止マレ!」が流れるという構成でもいいかもしれません。

 レベル2 : 15話「エンドレスエイト」まで視聴した人向け
 掲示板の流れは速いときにはおもしろい書き込みは本当に少ない。自分の怒りに共感して欲しくて書き込みをしている人は不毛な怒りをただ増幅させてしまうだけなので、嫌な気持ちしか残らないでしょう。大好きな作品に違和感を覚えたのは自然な事だとしても、それを大嫌いにしてしまったのは、同意して欲しいだけで掲示板に書き込みまくった自身の浅はかさだと気付いて欲しいものです。まあ私も以前は同じような事をしてしまった事がありますので強くはいえませんが。
書き込みでおもしろかったのは、長門の心情を認知症の介護者に例えた書き込みと、それにインスパイアされた長門スレ絵師さんの漫画くらい。

描いたー。
ハッピーだ!幸せが一番!
思ったより楽しくなかった!
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まぁもうこんな時間だけど、ね☆
長門有希に萌えるスレ 175冊目より

これを描かれたのはSyu's blogにあるサムデイインザレイン」を題材にした漫画の人だと思うのだけれど、すばらしいファンアートを描かれていて、いつも書き込みを楽しみにさせていただいています。

彼(?)のような長門スキーのみなさんの為に、ネタを提供したいと思います。
エンドレスエイト」では、ハルヒの望みは二つあります。そして、一つは決して省みられません。
 一つはもちろん、17日の喫茶店でのあんたはなにかしたいことある?(暴走p.26 原作では朝比奈さんに聞く前にキョンに聞いている)また、30日にも喫茶店でねえ、他になにかしたいことある?暴走p.76)という、団員、特にキョンの望む事をして喜びを分かち合いたいという事

 今ひとつは、天体観測でのいないのかしら(略)火星人(暴走p.64)に続く台詞です
12話では
いないのかしら火星人よどうしてよ、とっても友好的な連中かもしれないじゃないの、きっと地下の大空洞とかでひっそり暮らしてる、遠慮がちな人種なのよ、地球人をびっくりさせないようにしてくれてるんだわ火星はもういいわ、UFOみつけましょうよ、きっと衛星軌道上に、異星人の先遣隊が待機してるはずよ、ほら、みくるちゃんも手伝って。(00;18;43)」
13話
いないのかしら火星人地表には誰もいないみたいだから、いるとしたら地下で暮らすような遠慮がちな人種ね。多分友好的な連中よ人間が初めて火星に降り立ったときは、きっと物陰から出てきて歓迎してくれるに違いないわ、ようこそ火星にってねああ、もうあきちゃった、UFO探しましょUFO(00;19;54)
14話
ああ、もうあきちゃった、UFO探しましょUFO(00;19;48)
15話
いないのかしら火星人多分、地下で暮らすような遠慮がちな人種なのね、きっと友好的な連中よもう飽きてきちゃった、UFO探しましょUFO(00;19;49)

 ハルヒが出会いたいのは、会いに行くまで隠れて待っている遠慮がち友好的な宇宙人です。
 ハルヒの力は彼女自身の望みを既に叶えています。望遠鏡をのそきこんでいる顔をあげればそこに宇宙人が見えるからです。しかし、ハルヒはその事に決して気付きません。15000回にも及ぶハルヒの願いの言葉を、長門はどんな気持ちで聞いていたのでしょう。でも、長門はその想いに答えることはできません。長門が盆踊り会場で宇宙人のお面を買い続けたのは、私があなたの望んだ宇宙人だとハルヒに伝えたかったからなのでしょうか。

 ループを抜けて2ヵ月後、長門は再びハルヒの望むままに宇宙人の仮装をする事になりますし、また節分の日にも彼女はお面に想いを託す事になります。

*) 「長門スレまとめwiki」によると、画像ファイルへの直リン禁止だそうですので、画像へのリンクは当サイト内に保存したものへ差し替えました。

 レベル2 : 15話まで視聴した人向け。ただし[ ]内反転部分と脚注のみレベル5!:分裂を読んでいる人

 15話「エンドレスエイト」配信開始
 種明かしの回。繰り返される入道雲と模型飛行機のカットで夏=ハルヒが暗示される。30日、喫茶店を出ようとするハルヒを引きとめようとするキョンにフラッシュバック。映画の中の男女の姿に向かって伸ばされるキョンの手。映画の中のヒロインが振り向くと、それはなんとハルヒ。夏が過ぎ去ってゆくように、いつかハルヒもキョンのそばからいなくなるのでしょう。想いを言葉にできないキョンにとって、それはあと二年後の現実。映画の中のヒロインに手を伸ばしても決して届かないように、過ぎ去った思い出にもふれる事はできません。今言葉に出して引き止める事ができなければハルヒは[中学時代の「変な女」佐々木が、この時点ではそうであるように*)]思い出の中だけの存在になってしまいます。

 ハルヒの能力はキョンの望みを叶えていました。600年もの間、去り行く夏とハルヒとの思い出とを引き止めていたのです。

 もう一度見直すと、あの傍若無人なハルヒがこんなに楽しい夏休みを演出できるなんてと思って見ていた12話にさえ、キョンがSOS団員の後姿になんともいえない寂寥感を感じている様が描かれています(00;22;05~00;22;17明日は予備日に開けといたけど部室で会いましょのあとのキョンのアップまで)。

 そして、宇宙人のお面を15000回買い続ける長門は、自らの「ハルヒを観測する為だけに生きている宇宙人」という使命のみを支えに絶望に耐えています。彼女の存在が認められる日はくるのでしょうか。

*)今回、プールや盆踊り会場でハルヒがカチューシャを外していたのは、原作9巻を読んでいる人向けのメッセージであったのだと信じます。[佐々木のデザインはカチューシャを外したハルヒですから]
浴衣を着て3人が並ぶシーンなど、カチューシャ無しハルヒは真ん中やキョンのとなりを朝比奈さんに譲っているのですが、これもキョンの視界から外すという映像的要請や「みくるちゃんと並びたいんでしょ」というハルヒの考えの他に、カチューシャ無しハルヒを[大人しい性格の佐々木さんに見せる]という意味もあったのでは?というのは考えすぎでしょうか
つかアニメ板のハルヒスレで13話あたりのハルヒからカチューシャを外した加工画像をうpしてた人って関係者?

 16話放送開始
 さらなるちゃぶ台返し!
掲示板ではフィギュアを破壊したり原作文庫本を破いてupする住人まで現れました。
しかし既に「かんなぎ騒動」(ググってください)を見たばかりの住人に三番煎じでは冷笑を買っただけのようです。

AAは「涼宮ハルヒの憂鬱 SOS団の活動1343日目」から

 いくらなんでも被害妄想ですよね(汗)

 怒るなとは言いませんが、裏事情分析ごっこは傍から見ていても嘆かわしい限りです。何の計算もなくこんな勇気の要る事する訳無いじゃんとは思えないんでしょうか。
 しかしながら「手抜き」とか「前衛」とか言われて叩かれる京都アニメーションを羨ましくも感じます。毎週そう言いながら見ている住人の何万分の一が実験映画を見に来てくれるでしょうか。
 お前の意見はどうかと言われそうなので大急ぎで…
 私はこの作品を、むしろフツーのTVアニメとしてみています。この「雑記」でも、台詞を追うことを主眼としていて、映像の順位はその次にしています。未だ私の脳内のナラティブモードスイッチをアヴァンギャルドモードに切り替えるには至っていません。前衛ってのはもっとヒリヒリザワザワしたものではないでしょうか。
 さて、今回びっくりするのは、変化していたはずのものが取り除かれている事です。代わりに別の大きな変化の兆しが描かれています。
 怒っている人やあきれている人には、怒りに任せて書き込むよりもう一度見たほうが楽しいですよと言いたいのです。

エンドレスエイト」アニメ版では、原作8巻までに課されていた「キョンが忘れたものは描かない」というセオリーを破っています。
 そして今回の事件はキョンの性格では決して突破できない大きな困難です。
 私も実は原作「エンドレスエイト」を読んで、なんか面白くないよなと思っていたのですが、その理由が主人公の性格から突破できない困難のはずなのにあっさりとそれを乗り越えているように見えてしまうからだとは、アニメ版を見るまで気付きませんでした。キョンにとって「エンドレスエイト」は「消失」より遥かに大きな事件なのです。

 それはこういう事です。
憂鬱」当初のキョンは、何があっても動じない不自然な性格です。不思議なものに出会いたい、でもそんなものあるわけねえと思っていて、たいした期待も無く高校に入学し美しい少女と出会う。これは、日常に飽きているが刺激が欲しいと思って「涼宮ハルヒの憂鬱」を手に取り、まあ値段の分は楽しませてくれるよなあと思いながら読み出す・・・という読者と同じ立ち位置です。
 ハルヒが奇妙な団を立ち上げ、集ってきた者たちが超常的な存在だと自己紹介しても、その少女たちが自分を守って血を流しても、やっとマジでくたばる5秒前そんなもんかと思うキョンの平常心は読者の心そのものです。
 こんな主人公がかっこよく決断し、大声で叫びながら戦って見せても読者は信用できません。だから、キョンはどんな困難に直面しても平然と受け流し、読者を苛立たせ、さんざん「早く動けよ」「こうすりゃいいじゃないか」と思わせた挙句にきっぱりと行動するが、すぐに平常に戻ってしまい滅多にマジにならないキャラクターとして描かれています。読者より動かない、読者を散々やきもきさせる「明日になったら本気出す」キャラクター性こそがキョンの持っているリアリティーなのです。

 二週間あればハルヒに本当は何が望みなのか、それとなく聞けるのに。ハルヒ本人も解らないかもしれないけれど、だったらもっとしっかり見ていてやれよ。なんで何千回も解らないなんて言ってるんだ。あるはずがない憂鬱Ⅵ)ってのはハッタリだったのかよ
 喫茶店の帰りに長門を呼び止めたら、ちゃんと聞けよ。違和感があるなら最近元気かでごまかすなよ
エマージェンシーモードで守ってくれた長門じゃねえか、せめてお面だけでも買ってやれよ。いいって言われたぐらいで引っ込むなよ
 私の役目は観測だからなんて言わせるなよ。「友達だろ」って言ってやれよ
 なんで朝比奈さんは「あたしは涼宮さんの力が怖い、キョン君助けて」って言わないの?
 なんで古泉はキョンに断られても、「何よりもあなた自身の人生の為に想いを伝えるべきです」って言わないの?
 長門はキョンに自分の気持ちを言えよ。ただのロボットだと思われたいわけないだろ

ーそれができないのはキョンがキョンだからです。
 非常事態が日常そのものの中にあり、二週間しかないから、キョンは本気にならない。
 ハルヒに去って欲しくないとしか願えない。だからループは止まらない。
 原作ではデジャブが限界を超えて酷くなり、本気を出さざるを得なくなったので事件が解決しました。
 今回、やっと視聴者もヤキモキしだしたように見えます。

 この動かないキャラクターを動かす為に「雪山症候群」以降では、初めから不穏な空気を流し、キョンを本気にさせる手法を取っているように思います。このキャラ設定ではクライマックスに至れない、どうやってもてもかっこよくなりすぎる。それ故驚愕が終われないのではないかと妄想しております。願わくばアニメ版の構成協力者である原作者谷川先生に、キョンをもう一段レベルアップさせるヒントを掴んで頂ければと一ファンは思っています。

キョンの自転車?

 小ネタ
google mapで遊んでいて気が付いたのですが、西宮北口駅前にキョンの自転車が停めてあります。
(google mapよりお借りしました。上記リンクでこの赤い自転車が見えないときはmapをドラッグしてください現在は見えなくなっています。追記)
ちょうど13話(00;02;46)で駐輪した位置です。
画面奥の方から遅いわよ、キョン。もっとやる気を見せなさい!暴走p.10)と声が聞こえてきそうです。
おそるべし、現実を侵犯するハルヒパワー!

現実がいつのまにかアニメだったと語るポルナレフ

 しかし、一体この赤い自転車は何でしょうか。フレームがちょっと違いますが篭や荷台がよく似ていますね。単なる偶然?ハルヒファンのいたずら?googleの茶目っ気?ひょっとして京都アニメーションがロケハンした頃にもこの自転車は停めてあって、それをモデルにキョンの自転車をデザインしたとか?
聖地巡礼サイトを巡ってみると、憂鬱Ⅲでこの場所に駐輪したキョンが自転車を撤去されてしまった(00;18;36)ように、ここは不法駐輪に悩まされている場所だそうで、このmapをドラッグしてみるとアニメと同じようなところに「駐輪禁止」の表示も見えます。毎日ハルヒファンがここに駐輪するのも危険でしょう。ハルヒファンのgoogle社員が撮影時にこの自転車を持ってきたんでしょうか?

 レベル2 : 16話まで視聴した人向け。
 16話「エンドレスエイト」配信開始
「兆し」の回
 前回まで深まってきた深刻さが消失。デジャヴのみが持続しています。
 13話の老賢者のような、15話の悲哀に満ちた老女のような長門は、今回は外見年齢よりも幼く見えます。
 長門の感情を奪ったかもしれないハルヒに、ザンザ・ルブで「邪神め、死なば諸共」と叫びながらぶちかましをかけたい方もいらっしゃるかも知れません。あの切迫感が増大していくことで解決に結びつくのではと思っていた多くのファンが、長門の代わりに絶望に打ちひしがれたというのは、私にも理解できます。

 しかし、今回には別の兆候が生じています。
 深夜のSOS団ミーティングには、いままで無かったものがあります。それは全員の手元に置かれたお茶のペットボトルです。
 だれが買ってきたのでしょうか。全員で買いに行けばそれぞれの好みの物になるはずです。涙を流す朝比奈さんの姿を見かねて買ってきたものに違いないのですが、古泉が買いに行ったのでしょうか。いえ、違います。(00;14;48俺たちの、いや、全人類の記憶は?)を見ると古泉の左手側にお茶が置かれています。古泉のジェスチャーや左手に時計をしている事から、彼は右利きです。(00;14;25俺たちは、あの閉鎖空間みたいなものの中に)からのカットの直前には、キョンがペットボトルを3人に対して自分から近い側に置いて、その後に自分が座る動作があったと考えれば矛盾がありません。このカットは自分が座った隣に自分の分を置く動作なのです。

 長門はペットボトルを両手でしっかりと握り締め、見つめたまま動きません。キョンからの、お面を買ってあげようという申し出を594年間も断り続けたのに、初めてキョンに(キョン自身の意思で)買ってもらったのです*)。キョンから事件の詳細について尋ねられた長門は、初めてキョンに視線を合わせて答えます。彼女の心に変化が生じたのでしょうか。長門を思いやりながら帰るキョンの上空に、今まで星がまばらだった筈の空からは、13話と同じ銀河が凄まじい輝きを放っています。

 変化しているのは長門だけではありません。天体観測では望遠鏡を覗くのはキョンです。やはりハルヒの気持ちを理解できないキョンと、そのキョンに話しかけるハルヒを、今までの回ではそっぽを向いていた長門が見つめています。古泉からキョンへの申し出を背中で聞く長門。いままでは半ば諦めかけながら話していた古泉が、今回は笑っています。
 この後の怒涛の夏休みイベント消化体制のシークエンス(作中の長門さん用語ではなく、映画用語)は、15話と同じく一つつながりのシーンです。遊具を回すシーンの意味は、海の藻屑さんが詳しく解説されています。が、ここでも変化がおきています。15話では夏とハルヒ自身の象徴としてキョンの前に立ちはだかった入道雲が、午後の光を浴びながら雨を降らせているのです。「増水に注意」の表示を雨越しに写した(00;20;03)あと、わざわざ川の鉄橋下で雨宿り、雨が止んで光が差し込むと虹が北高にかかり、雨上がりの公園に至ります。さて、一期放送では雨は特別の意味を持っていました。一期アニメ版ではハルヒが望まない限り雨は降らなかったのです。この雨は皆と仲良くしたいハルヒの望み**)が降らせたものなのでしょうか。

*)15話でも全員に缶飲料があります。が、よく見ると缶が全員別々です。(00;14;51)では一つ路面に落ちており、長門、朝比奈さん、キョンの右に缶が置かれ古泉のみが缶を開けています。この細やかさからして、買ってきたのは古泉ではないでしょうか。キョンは孤島症候群(前編00;07;37)で缶を落とします。が、おそらく拾ってそのまま持ってきたのではないかと思います。
**)アルバイトでも15話で初めて机の上にお茶が出されていますが、16話では弁当も出されています。ハルヒのみんなお疲れーもいままでとニュアンスが違い、ちゃんと労をねぎらっています。

 17話放送開始
 またしてもちゃぶ台返し!掲示板は……

長門の気持ちがわかると叫びながら踊る人たち
AAは「涼宮ハルヒの憂鬱 SOS団の活動1383日目」から

 resetとは伏線の引きようがないという事だったと、まざまざと思い知らされる展開。12話から16話までは今や長門のメモリーの中だけにしかないのです。確かにループすれば同じイベントが繰り返されるのかもしれません。しかし、もう13+14話の古泉の狂気も、14話のハルヒのアイコンタクトも、15話の長門の悲哀も、16話でキョンの買ったペットボトルと、恐らくはナンパ少年たちに向かって長門の目の前で「悪いな、こいつら俺のツレなんだ」と初めて言っただろう事も、16話でハルヒが振り回していた花火が消えてしまうように(00;09;22 このカット、ぐっときますね)失われて帰ることがありません。

失った時間は、決して取り戻す事ができないのよ

 私たちは、ハルヒの言葉の意味を知る事になるのです。が、そのなかでただ一つだけ、大きくなり続けている事があります。くわしくは次回。そしてまたひとつ、原作購読時には思いもよらなかった疑問がわいてきました。

 キョン、古泉、朝比奈さんの脳にデジャヴをもたらしたのは誰?

 17話のweb配信は、16話配信サイトによれば7月29日(水)22時00分~7月30日(木)21時59分の1日だけの模様。唖然とする展開に驚いて取り逃されないよう、急いでダウンロードする事を推奨します。